
エッジAIとは
昨今のAIに対する盛り上がりにより、“エッジAI”という言葉が浸透してきた。“クラウドAI“に比して利用される技術であり、双方を取り入れた技術が益々注目浴びている。エッジコンピューティングは、エッジ処理とも呼ばれ「デバイスの近くにサーバーを分散配置する」ネットワーク技術のひとつで、システム本体に対する処理の負荷軽減や、通信遅延を解消するために発展している技術です。このセンサーやデバイスなどからのデータを発生したその場所(エッジ)で処理されることから、エッジコンピューティングと呼ばれています。
クラウドAIとIoT
エッジAIがなぜ注目されるようになったのか、それにはいくつかの理由があるが、まずは、Amazon、Microsoft、Google と呼ばれる大手クラウドベンダー3社が「クラウドAIサービス」を充実させたからだ。Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft(Azure)、Google(Google Cloud)の主要パブリッククラウドベンダー3社は、人工知能(AI)エンジンや、それを組み込んだ機能をクラウドサービスとして提供をはじめ、これにより、AI技術の利用が容易になったことで、AIの利用シーンが爆発的に増えた。そして次に注目を浴びたのは、IoT界隈である。IoTで生成される膨大なデータを収集・蓄積し、AIによる分析を行うプラットフォームとして、スケーラブルな特性を持つクラウドが活用されるようになった。
エッジデバイスへのAI搭載
IoT端末、たとえば、工場の産業ロボットや、自動車、スマートフォンも該当する。IoTデバイスから発生するデータを、瞬時に判断や制御が要求される処理がそこにはあり、このニーズに応えるためにエッジコンピューティングで、クラウド上の深層学習(ディープラーニング)を経て生成、さらに推論モデルや予測モデルを、データの発生元つまりデバイス(エッジ)にて展開して利用されます。工場の産業ロボットにおいて、監視カメラや各種センサーなどの膨大なマルチモーダルなデータを、人間では処理しきれない速度で、また人間には見つけられない製造ラインにおいての不良データを検出し、可視化または判断を下すことがAI技術に求められます。このようなIoTの仕組みにより、製造ラインから膨大に生成されるデータを蓄積し、機械学習などのAI技術を適用した分析・学習を行うことで、工場のスマート化を支える推論モデルや予測モデルを構築できるようになりました。
エッジAIにはリアルタイム性が重要
産業ロボットだけでなく、自動車や家電など、さまざまなモノがインターネットにつながるIoTデバイスをはじめ、通信量の大幅な増加が進行し、また高度な機能や処理が求められるようになり、通信速度や通信容量などを理由にクラウドでは対応できない場面が徐々に増えてきている。自動車の自動運転時の物体検出や、人命にもかかわるブレーキやハンドル操作などをクラウドで遅延のあるレスポンスを想像したら良くわかるだろう。遅延や通信障害があってはならない、リアルタイムのレスポンスが必要で、通信のタイムラグをなくし、自動運転するデバイスがクライドAIを頼ることなく自らが画像を解析し判断をその場で下す必要がある。このように、クラウドAIの発展とともに、注目を浴びているエッジAI。クラウドに任せていた情報処理をエッジデバイス側に一部を任せることで、通信遅延のないリアルタイムな処理が可能になった。そのうえで、必要な情報のみをクラウドに送受信する事で、通信に伴う通信容量の削減と通信遮断による影響を最小限に抑えることを可能にした。
「エッジAI」のビジネス市場拡大
富士経済グループより発表された「2019 人工知能ビジネス総調査」の予測よると、エッジAIコンピューティング市場は、2018年度に見込み110億円だった市場規模が、2030年度には664億円にまで拡大する見込み。エッジAIコンピューティング市場は、産業機器向けと民生機器向けの市場に分類される。産業機器は、主に製造現場に設置されているFA機器や建設現場での建設機械、倉庫における物流機器などが挙げられ、こうした機器にAIを搭載して、機器制御や最適化、熟練工の技術継承などを行っていく実証実験が進められている。
民生機器はモバイル機器であり、これらにAIを搭載して被写体を自動認識するなど、カメラ/画像認識で実装が進んでいる。産業機器向けに比べデバイス数が多いため、民生機器市場は2021年度以降、急速に拡大するとみられる。
5Gにより加速する「エッジAI」
海外ではすでにスマートフォンの5Gがはじまっているが、日本においては、準備段階、そしてこの春から順次サービス開始とされる期待される通信技術だ。
- NTTドコモ: 2020年春
- KDDI/沖縄セルラー電話: 2020年3月
- ソフトバンク: 2020年3月頃
- 楽天モバイル: 2020年6月頃
5Gは、現在主流となっている4G(あるいはLTE)に続く次世代モバイル通信規格の事で、5Gの大きな特徴は、「超高速化」「超多数同時接続」「超低遅延」の3点、4Gとの差は歴然だ。
4G | 5G | |
通信速度 | 最大1Gbps | 最大20Gbps(20倍) |
同時接続数 | 10万台/平方km2 | 100万台/km2(10倍) |
遅延速度 | 10ms | 1ms (10分の1) |
IoT、エッジAIの発展において5Gは必要不可欠なもので、あらゆるものがIoTデバイスとして通信をすることになると、通信容量が肥大化し、通信速度を逼迫する。またリアルタイムが必要な処理の場合、遅延速度も大きな問題となる。またこれらの普及により通信コストが削減され、ますます需要が伸びると思われます。
「エッジAI」の活用事例
エッジAIを使ったサービスは現在幅広く利用されているが、代表的なモノとして、自動運転、公共の場での顔認証、気象予報、自律型ドローン、工場での検査などがよく知られている。
1)自動運転
自動運転車はエッジコンピューティングの活用が最も期待されている分野です。自動車は瞬時に状況判断しなければならない場面が多く、データ処理のリアルタイム性が求められます。2019年12月1日の「道路交通法」と「道路運送車両法」の改正により、自動運転レベル3機器の保安基準と、システムの運転時の事故の所在が明確になり、これにより2020年は、いくつかの自動車メーカーから自動運転レベル3搭載車の市販化が進むと思われる。トヨタはレクサスLSをベースとした自動運転実験車「TRI-P4」で、完全自動運転のレベル4をテストしている段階。
2)自律型ドローン
遠隔飛行実験していたドローンが制御不能になり行方不明になった、事故にあったなどというニュースを見ることが増えた。落下した場所によっては大惨事になりかねないドローンの操縦を、「自律型ドローン」では、操縦者がドローンの飛行に積極的には関与せず、遠隔操作で監視して、どうしても必要な場合にのみ操縦するドローン(小型無人航空機)を指します。Amazonは、2019年6月ラスベガスで開催した「re: MARS会議」で、自律飛行などを可能にした新型ドローンで数か月以内にパッケージ配送を実現するとも公表した。
3)顔認証
防犯アイテムとして欠かせない監視カメラにおいて、記録するだけのカメラではなく、AIの技術開発に伴い機能も高度化している中、顔認証システムによって不審者や犯人の特定もできるようになってきている。株式会社WDSでは、2019年11月、カメラ単体で顔の特徴点をリアルタイムに解析できるAIカメラモジュール「Eeye」の提供を開始した。AIエッジコンピューティング処理にて顔の特徴点をリアルタイムに解析し、高速かつ正確に顔認証処理の実現を可能とするAIカメラモジュール”Eeye”を搭載し、性別や年齢などの顔の特徴値を利用したマーケッティングツールや、顔を特定できる特定値比較によるロック解除などへの利用が可能となっている。
4)スマートフォン
一番身近にある「エッジAI」デバイスとして外せないものがスマートフォン。音声デバイスとしてiPhoneに搭載されている「Siri」や、Androidに搭載されている「googleアシスタント」も今では日常で使われているがこれも音声UIとしてエッジAIが活躍している。 AIをオンデバイスとし、デバイス(エッジ)側で処理することにより、デバイスのデータをクラウドに送る必要がない。これによりプライバシーを担保し、通信量を抑えることに成功している。スマートデバイスとして、GoogleやAmazonに遅れをとるアップルは、2020年1月、2億ドル(約220億円)を投じ、シアトルに本拠を置くAI(人工知能)企業「Xnor.ai」を買収したと報じられた。Xnor.aiのAIテクノロジーは、クラウドではなくユーザーの手元にあるスマホやスマートウォッチなどでデータを処理する「エッジ処理」に強みを持っている。これによりSiriの音声処理を向上や、顔認証技術の応用、またAIをデバイス内蔵型にすることでプライバシーを高められることになりそうだ。
※ 本記事は、栗田辰男様による寄稿記事です。
著者プロフィール: 自営のフィールドエンジニアから、PHPプログラマ、そして現在UXディレクター、おもにテクニカルディレクターとして、企業のプロダクトを支える仕事をしています。応用情報、情報セキュリティマネジメント、メンタルヘルスマネジメント二種、HTMLプロフェッショナル、G検定、AI実装検定など所持し幅広く視野を広げています。 Twitter: @mc_kurita
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