AI生成音楽を配信する企業MubertのCEO、「音楽のDNA作成」を目指す

2020年04月09日

インターネットの台頭に伴う最大の問題の一つは、海賊版コンテンツに容易にアクセスできることです。音楽からビデオゲームに至るまで、著作権侵害によって影響を受ける様々な業界は、コンテンツを保護するために対策を講じてきました。そのため、音楽業界は著作権法の施行について非常に厳格です。Youtubeでは、ライセンスを取得せずに著作権保護されたコンテンツを動画で使用していると、しばしば動画が削除されたり、アカウントそのものが停止されたりします。とはいえ、適切なチャネルを経由して楽曲のライセンスを取得するのは、非常に時間もお金もかかります。この問題を解決するために、アレクセイ・カチェトコフ氏はAI生成音楽アプリMubertを開発しました。

 

Mubertとは?

創業者兼CEOのアレクセイ・カチェトコフ氏は、コンピューターサイエンスと音楽教育の両方の学位を取得しています。Mubertは、同氏の両分野にわたる専門知識から生まれました。カチェトコフ氏がMubertで目指しているのは、音楽業界の新しい時代を切り開き、ビデオゲームストリーマーやボイスアシスタントの開発者など様々な業界の人々に費用対効果の高い音楽ソリューションを提供することです。 さらに、Mubertの研究チームは、「音楽のDNA」を作成するために開発を続けています。この研究は、ユーザーの嗜好や音楽再生中に行うアクティビティに合った音楽を生成しようとする試みです。私たちはカチェトコフ氏を取材して、商品について詳しくお話を伺いました。

Mubert創業者兼CEOのアレクセイ・カチェトコフ氏

カチェトコフ: MubertはAI生成音楽の会社です。人工知能を利用して、商用または個人用に、ノンストップのオリジナル曲を生成するアルゴリズムを開発しています。生成された音楽は簡単にカスタマイズして、世界にストリーミング配信することが可能です。最も基本的なアプリの使い方としては、まずボタンをタップして特定のアクティビティやジャンルの音楽を選択します。すると、Mubertがランダムなテンポと音階で、そのカテゴリーに合った音楽を生成します。ユーザーはアプリの「いいね」ボタンと「嫌い」ボタンを利用して、音楽を調整できます。このようにして、ユーザーは、自分の嗜好に合った音楽を生成するようにAIを学習させるのです。

現時点では、モバイルアプリでテンポを自動的に変更することはできません。しかし、現在、完全に音楽を制御することができるアプリの構築に取り組んでいるところです。私たちの最初の目標は、ユーザーがボタンを押すだけでノンストップの音楽を生成できるアプリを作ることでした。

一方、私たちは、よりカスタマイズした音楽ソリューションを必要とする企業向けにプライベートAPIを提供しています。このAPIを利用すれば、AIによる音楽生成を制御し、カスタマイズすることが可能です。インプットデータをカスタマイズして音楽作成に利用することもできます。

 

AI生成音楽アプリのアイデアはどのようにして生まれたのですか?

カチェトコフ: 私は友達と10キロ、ジョギングするのを日課としていました。ある日、ジョギング中に、聴いているプレイリストの曲順を変更するのが面倒だよねという話になりました。特にジョギングに集中したいと思っている時など、曲の順序を変更しなくてはならないのはうっとうしいですよね。

そこで、私は、自分のジョギングのテンポに合った音楽を生成するアルゴリズムを作りたいと考えていることを彼に話し始めました。このようにして、Mubertが誕生しました。Mubertは、特定のテンポや気分に合ったノンストップのプレイリストを作るというアイデアをベースにしています。こんなアプリがあれば、集中力を維持するのにとても役立つでしょう。 様々な種類の曲やアーティストを含むプレイリストでは、あまり集中することができません。その日、私は友人を五人集めてこのアルゴリズムの作成を開始しました。そして一年後、メンバーを変えて商業化にこぎつけました。

 

Mubertは市場のどのようなニーズを満たし、クリエイターが抱えるどのような問題を解決するのですか? 

カチェトコフ: 現在、著作権で保護されたコンテンツに関する規制が強化される傾向があります。企業は、自社のサービスやアプリに音楽を加えたり、公共の場で音楽を演奏したりする上で多くの課題を抱えています。著作権で保護されたコンテンツを使用する前に、購入することを義務づけられていますが、これは非常に時間のかかる作業です。 

ジェネレーティブミュージックとも呼ばれるAI生成音楽は、世界中の企業が抱えているこの問題を解決します。私たちのプラットフォームを利用すれば、世界中に音楽をストリーム配信することが可能です。私たちは弊社コンテンツに関する全ての権利を持っているので、コンテンツを世界中に配信したり、弊社と契約を結んでいる他の企業にアクセスを提供したりすることができます。

もう一つの問題は、ミュージシャンが自分たちの音楽や音を簡単に収益化できないことです。私たちは、ミュージシャンに使用料を支払い、サンプルを提供してもらうことによって、この問題を解決しています。弊社チームは、これらのサンプルをMubertで利用しています。曲全体を配信したり、それらを利用してビジネス顧客向けに新しい音楽を作成したりします。この音楽は著作権で保護されており、使用料はかかりません。

 

Mubertはどのような人にとって最も役立つと思いますか? 

カチェトコフ: 現在、最もよく利用されているのは、ストリーミングサービスとボイスアシスタントです。そして、もう一つの大きなターゲット市場は、公共スペース向けの音楽です。これらのユースケースは、著作権で保護されているコンテンツに関して同じ問題に直面しています。公共スペースで音楽を演奏する際は必ずライセンスの取得が必要です。これを怠ると、罰金を科される可能性があります。この最も大きな事例は、スポーツ用音楽のストリーム配信を手がけるPeleton(ペロトン)です。著作権で保護されている音楽を使用したことで、彼らは今年、1億5000万ドルの罰金を科されました。 

Mubertは、これらの活用事例のために音楽を簡単に取得できるプラットフォームです。弊社サービスを利用すれば、著作権で保護された曲を使用して罰金を科されるリスクを負わずに、使用料無料の音楽をストリーミングできます。 

 

このAI生成音楽アプリはGANと同じような生成モデルをベースにしているのですか?

カチェトコフ: Mubertはそのようなアルゴリズムとは非常に異なっています。Mubertは音楽を生成するためのAPIとアプリケーションですが、生成アルゴリズムではありません。ニューラルネットワーク自体は主に、音の分類、データ分析、データベースの作成に用いられています。このデータベースは、音楽のルールに基づいた音楽アルゴリズムによって分析されます。最後に、ストリーミングプラットフォームを通じて顧客に音楽が配信されます。

音楽が生成されている時、プログラムは音を組み合わせているだけです。これを行うためにニューラルネットワークを使う必要はありません。ただし、特定の気分に合った音を正確に組み合わせるためには、機械学習とビッグデータ用アルゴリズムを利用する必要があります。もう一つ私たちが取り組んでいるのは、曲の好き嫌いを伝えて、プレイリストを自分好みに調整するためのボタンです。基本的に、これがユーザー独自のAIとなり、私たちはこのデータを利用してMubertのユーザー一人一人に個人的な体験を提供します。

音を正確に組み合わせるためには、全ての音の細かな特徴を把握する必要があります。私たちは約50万個のサンプルを集めたデータベースを保有していますが、良い音楽を生成するためには、これらのサンプルを正確に分類して、全ての音の特徴を漏れなく見つけ、それを利用することが重要です。

各音から抽出できるパラメータセットは数多くあります。例えば、軽い音、重い音、120BPMのテンポの音などです。これは、AIアルゴリズムが役立つ主要な分野です。異なる問題を解決するためには、違うアルゴリズムが必要です。必要になるアルゴリズムは、各ステップで解決しようとするタスクによって異なります。 

 

データが正確に分類されているかどうかを人間が確認していますか?

今日のAIにおける最大の課題の一つは、高品質の学習データへのアクセスです。また、多くの場合、機械学習を行う前に、人間がデータにアノテーションやメタデータを付ける必要があります。Mubertの場合も、50万個以上の音と音楽のサンプルから成るデータベースを維持するのは簡単な作業ではありません。

カチェトコフ: 弊社では2千人のミュージシャンのチームがこのシステムに取り組んでいます。さらに、AIアルゴリズムの結果を検証するディレクターも数名います。今後、これらのアルゴリズムを利用して、音とリスナー両方に関するデータを分類する予定です。 

私たちはちょうど、「いいね」ボタンと「嫌い」ボタンの導入を始めたところです。リスナーからのこの情報を利用して、特定の曲を「いいね」と感じる瞬間や「嫌い」と感じる瞬間について分析しようとしています。その瞬間に再生されている音の全ての特徴を分析する必要があります。

 

Mubert利用者は追加の使用料を払うことなく、音楽を商用利用できるのですか?

カチェトコフ: 今のところ、使用料無料のビジネスを構築したいと考えています。毎月一定の料金を支払うことで無制限に音楽を取得できるサブスクリプションベースのビジネスを構築したいのです。ただし、これを実現するためには、弊社が全ての権利を有するサンプルだけしか使用できません。そこで、サウンドや音楽のサンプルを完全に購入する必要があります。

私たちはまず、サンプルパックを購入して使用し、変換して様々なジャンルやテンポ、音階に拡張します。次に、ミュージシャンが作成したサウンドをベースにして弊社独自のサンプルを作り、自由に使用できる権利を保有します。最終的には、それを世界中のあらゆる企業に販売することが可能です。このようにして、APIソリューション用にこのモデルを構築したいと考えています。 

 

Mubertは、Spotifyなどの他の音楽配信アプリと比べてどのように優れているのですか? 

カチェトコフ: Mubertは集中力の維持に優れています。Spotifyなどのアプリと異なり、Mubertには停止や一時停止がありません。弊社の音楽配信は同じテンポの曲が無限に続きます。全編を通して、音楽の雰囲気には変化がありません。ジョギングの際に使ってもらってプロトタイプをテストしましたが、ユーザーはほぼ全員、次のように回答しています。

 Mubertは、特定のアクティビティに合った音楽が配信されるので、そのアクティビティに集中するのに役立ちます。瞑想と同じような効果があります。

 

Mubertは音楽業界や他の業界にどのような影響を与えるのでしょうか?

合成音声やディープフェイク技術の台頭に伴い、多くの人々は、このような技術によって様々な業界で失業者が増えるのではないかと案じています。例えば、合成音声は声優にとって大きな脅威です。同様に、Open AIが最近リリースしたGPT-2は、執筆業の人たちの職を奪う可能性があると言われています。MubertなどのAI生成音楽が主流になれば、様々な業界に大きな影響を与えるるのではないでしょうか。 

カチェトコフ: もちろん、AI技術による影響も生じるでしょう。しかし、私は、AI技術によって市場全体が強化され、業界のレベルアップにつながるだろうと考えています。レコーディング技術の出現によって音楽業界が劇的に変化したように、AIも市場全体に新しい時代を開きます。 さらに重要なのは、人々はマシンが生成した曲だけでなく、アーティストが作った音楽も聴きたいと思っているということです。マシンが生成した曲は主にBGMやオーディオブックの音楽に利用されます。

私は、音楽は2つのタイプに分けられると考えています。バックグラウンドミュージックとアーティストの音楽です。このうち、BGMはジョギングや仕事などの活動に利用されます。ただし、バーチャルアーティストを取り巻く技術には将来性があるので、弊社でAIバーチャルアーティストを作成したら、それがどのように進化するか見守るのは面白いだろうと考えています。

 

Mubertでの夢は?AI生成音楽の未来をどのように捉えていますか?

カチェトコフ: 音楽のDNAを作りたいと思っています。つまり、自分が聴いているサウンドに自分の嗜好を反映できる技術です。ボーカルソングでもBGMでも可能ですが、自分の嗜好にドンピシャでヘッドホンを外したくなくなるような音楽を作りたいのです。 さらに、合成音声技術とのコラボレーションもやってみたいと考えています。Mubertと合成音声技術を組み合わせれば、すばらしいバーチャルアーティストを作成できると思うからです。現在、Mubertにボーカルを加え、音声を合成して、バーチャルアーティストの構築を目指しています。

最も大事なことは、私たちの分析は単にサウンドそのものだけにとどまらず、音楽を聴いている瞬間にまつわるものだということです。単に「仕事中にテクノ音楽を聴いている」というのではなく、それよりはるかに深いものです。例えば、「仕事中にこのジャンルの曲を聴いている。軽いサウンドであり、パーカッションにはアナログドラムの音が使われている」といった具合です。個人の嗜好に合った音楽を生成するだけでなく、その人の活動や、その瞬間に合った音楽を提供しているのです。生活の全ての活動や瞬間に合わせて音楽をカスタマイズできるようにして、ライフスタイルに新たな側面を加えたいと考えています。 

Mubertの詳細は、同社ウェブサイトをご覧ください。合成メディアや生成モデル、機械学習に関する今話題のトピックについては、以下の関連記事をご覧ください。AIや機械学習の最新情報については、当社ブログへのご登録をお忘れなく。音声分類機など、音声学習データを必要とするモデルを構築している場合は、広範囲にわたる音声データサービスを提供する当社にぜひお問い合わせください。

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