AIのトップ学会、NeurIPSの歴史と未来

2020年08月03日

NeurIPS: Neural Information Processing Systems(神経情報処理システム)の学会とワークショップは1986年の設立以来、機械学習コミュニティにとって欠かせないものとなっています。NeurIPSは元々、生物学やニューラルネットワークを探究する研究者のための学際的な集まりとして始まりましたが、今では多くの人が、機械学習および人工知能分野における最も重要な学会の一つと捉えています。

2020年には、NeurIPSが初めて完全にオンラインで開催されることが発表されました。そこで、私たちは、NeurIPS Foundation(NeurIPS基金)のテレンス・セジュスキー現会長とマイケル・モーザー書記に、過去30年以上にわたるNeurIPSの歩みについてお話を伺いました。取材では、NeurIPSの過去および現在の傾向、仮想環境で行うことになった背景、そしてNeurIPSが今後果たすべき責任について触れています。

 

初期のNeurIPS

セジュスキーとモーザーは、初期の頃からNeurIPSに参加しており、セジュスキーは1988年に総議長、1993年に会長に就任しました。一方、モーザーは、初期のNeurIPSの会場からさほど遠くないコロラド大学ボルダー校で教鞭を取り始めていました。両者とも初期の多くのNeurIPSで論文を発表しています。

「とても刺激的な時代でした」とセジュスキーは当時を振り返ります。「ディープラーニングで現在利用されている機械学習アルゴリズムのほとんどは、1980年代に発明されました。NeurIPSはそれ以来、成長しましたが、科学的・工学的な多様性とそのエネルギーは今も当時も変わりません」

モーザーの記憶によると、以前のNeurIPSは、今より神経科学者や認知科学者の発表が多く、学問の垣根を超えた議論がより活発に行われていたということです。規模も小さかったので、この研究分野で何が起きているのかについて全体像を掴んだり、展示セッションで全てのポスターを見たりすることができました。

「初期のNeurIPSは、今よりはるかに親密で自発的でした。ワクワクするような刺激に溢れていましたが、あまり資金がなかったので、NeurIPSの参加者は、研究にかける情熱だけでやっていたようなものです」

 

NeurIPSの傾向(過去と現在)

長期にわたる参加者であるセジュスキーとモーザーは、NeurIPSの目玉である論文やプレゼンテーションにおけるトレンドの変遷を見てきました。モーザーは、研究トピックに循環性があると感じており、この傾向がポジティブな方向に向かうことを願っています。

「研究は以前のトピックに戻ってくるものです。アイデアはしばしば再構築されますが、この再開発はより大きな規模で行われます」とモーザーは説明します。「その良い例がニューラルネットワーキングです。1960年代のパーセプトロンから1980年代の誤差逆伝播法とコネクショニズム、2010年代のディープラーニングまで、このトピックに対する関心の高まりには三つの波がありました」

セジュスキーもまた、ディープラーニングの人気の高まりに気付いており、次のように指摘します。「ディープラーニングによってニューラルネットワークはNeurIPSに戻ってきました。ニューラルネットワークアルゴリズムがうまくスケーリングされたことと、ハードウェアが大幅に進歩したことがその主な理由です」

とはいえ、これらの分野の人気が高まっているだけでなく、研究が拡大するにつれ、NeurIPSには、データ分析や難しい計算問題の解決に役立つ多種多様なアルゴリズムが現れるようになっています。

一方、研究分野全体の成長に伴い、サブフィールドはより特化したものになっています。以前は、全体の規模が小さかったので傾向を見つけることが容易だったのですが、NeurIPSの成長につれてそれが難しくなってきたとモーザーは指摘します。「サブフィールド内に特定の傾向があるようなので、専門家でなければ気づくのが難しいのです。例えば、ビジョンモデルでは、key-value attentionメカニズムが大変人気を集めてきていて、局所的な結合性(local connectivity)や畳み込みに取って代わる勢いです」 

より最近の傾向として、セジュスキーは、ここ10年、ディープラーニングと神経科学の融合がより深まっていることを挙げています。「機械学習は、同時記録した数百万個のニューロンから分析するために利用されており、次世代の大規模な機械学習システムのヒントになるような発見につながっています」

 

NeurIPSのオンライン開催

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、世界中のイベントがオンラインの代替案を検討せざるをえなくなりました。しかし、オンラインと対面を組み合わせた学会へとNeurIPSを移行する計画は、それ以前から始まっていたとセジュスキーとモーザーは口をそろえます。

その理由の一つは、NeurIPSの急激な成長でした。登録参加者は2016年の5,000人から2019年の13,000人(さらに、6,000人が順番待ち)に増加しました。2018年のNeurIPSのチケットは12分もたたないうちに売り切れたと報じられており、抽選制が採用されることになりました。また、NeurIPSの主なプレゼンテーションの多くは既にライブ配信されています。 

セジュスキーは次のように説明します。「NeurIPSの急激な成長を受け、理事会はパンデミック以前から、対面式の学会の持続可能性について懸念していました。オンラインミーティングはその問題に対する解決策だったのです」

オンライン学会には多くのメリットがあるとモーザーは考えます。学会自体がよりアクセスしやすくなり、登録者数の制限を取り除くことができます。旅行や宿泊の費用について考慮する必要がなくなり、登録料も大幅に安くなります。一方、オンライン学会では、エンゲージメントの欠如が見られることもあるとモーザーは残念がります。「オンラインミーティングに対面の場合と同じような熱意をもって臨むのは非常に困難です。学会に出かければ、物理的に日常生活から切り離されるので、ルーチンを破るのがはるかに容易になります」 

そのため、将来のNeurIPSはオンラインと対面の混合になるのではないかとモーザーは見ています。「今年のNeurIPSは全部オンラインで行われますが、今後はオンラインと対面の混合で開催されることを誰もが期待しています。さらに、より地理的に分散して学会を開催することが計画されています。つまり、世界中の人が一つの場所に集まるのではなく、一度に複数の場所で学会を開催するというモデルに移行しつつあります」

このモデルでは、個人が自宅により近い場所でライブ配信のトークやプレゼンテーションを視聴できる上、フィールド内の他の人とつながりを作り、ネットワークを築くことができます。

 

機械学習コミュニティにとっての課題

おそらく当然のことながら、セジュスキーとモーザーは、AIの活用に伴って生じる広範な社会問題が、現在の機械学習コミュニティにとって最も喫緊の課題であると考えています。2020年には既に、顔認識に関するAIのバイアスやデータプライバシー、そしてディープフェイク技術をめぐるなりすましが問題になっています。

「社会におけるAIの普及に伴い、様々な問題が現れてきています」とセジュスキーは指摘します。「NeurIPSはこれまで中心となって、AIの倫理問題に関する意識を高め、ダイバーシティとインクルージョンを推進してきました。私たちは、15年以上にわたってWomen in Machine Learningを共催しているほか、類縁団体をいくつか支援しています」

モーザーは今後、同様の問題が発生することを見越して、次のように付け加えています。「このテクノロジーは非常にアクセスが容易なので、モデルをデプロイするためのハードルがかなり低く、よくないモデルやバイアスを含んだモデルがデプロイされる可能性が高いのです」

NeurIPSは、これらの問題のいくつかに対処するため、論文を提出する研究者に自らの研究が社会に及ぼす影響について記述することを義務化しています。これには、研究における倫理的配慮や今後の社会に与える影響、そして利益相反に関する記述が含まれます。また、NeurIPSには、Women in Machine Learning、Black in AI、Queer in AI、LatinX in AIなどのグループの拡大を目的として、専門のダイバーシティ&インクルージョン担当議長が置かれています。 

 

NeurIPSの今後の展望

ここ数年のNeurIPSの成長を受け、セジュスキーとモーザーは今後のNeurIPSの役割についてどのように考えているのでしょうか。機械学習およびAIの研究開発に対する関心は年を追うごとに高まっており、AI技術の普及に伴ってメディアによる報道が増え、コミュニティ内部からもますます監視の目が向けられるようになっています。

モーザーは広範囲にわたるサポートネットの存在を指摘し、次のように述べています。「最近のNeurIPSの議長は、この学会のより広範な社会的役割について検討しています。インクルージョンとダイバーシティの問題に焦点を当て、次世代の研究を見出し、支援しています。報道機関への情報提供についてもより積極的に取り組み、テクノロジー企業の最先端の技術を紹介したり、小規模のまだ確立されていない分野での学術交流をサポートしようとしたりしています」

セジュスキーは、未来を構築するためのプラットフォームとしてこの学会を捉えています。「NeurIPSは、私たちが支援している広範な機械学習コミュニティとともに進化を続けるだろうと私は楽観的に考えています。次世代の若い機械学習研究者たちがこの分野に入ってきて、しっかりした基礎の上に次の次元のAIを構築しているからです」

2020年のNeurIPSは12月5日から12日に予定されており、完全にオンラインで行われます。登録要項やトークおよびワークショップ、イベントのスケジュールに関する詳細は、公式のイベントウェブサイトに掲載されます。また、今後開催される2020年と2021年のAI学会に関する情報は、当社のAIイベントや国際学会のページをご覧ください。

 

取材者について

テレンス・セジュスキーは、ニューラルネットワークおよび計算論的神経科学分野における先駆者です。80年代初めに、ニューラルネットワークのタスク学習機能を実証しました。また、音声および視覚分野における困難な問題に機械学習アルゴリズムを適用した草分け的存在としても知られています。現在は主に、生涯学習のアーキテクチャ、スパイキングユニットによる計算、大規模な神経記録の分析に取り組んでいます。

マイケル・モーザーは、認知科学と機械学習の境界にあたる「人間の最適化」分野の研究を行っています。機械学習モデルを利用して人間の学習、認識、判断能力を向上させる方法を研究しています。また、一部の研究では、人間の認知に関する文献からの理論やデータを新しい機械学習手法を開発する上でのヒントとして活用しています。彼はこの研究を「認知情報に基づくAI(cognitively informed AI)」と呼んでいます。

 

Lionbridge AIについて

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