「感性」を中心とした人工知能について、計算知能が専門の岡本卓さんに聞いてみた!

2019年03月11日

デジタルマーケティングを使いこなしたい企業にとって、人工知能は強い味方になり得ます。当ブログでは、以前、マーケティングにおける機械学習の活用法や機械学習向けのマーケティングデータセットなどを取り上げました。

SENSYは、マーケティングの効率化や最適化をサポートする人工知能サービスを企業向けに開発しています。今回は、同社研究部門代表の岡本卓さんに取材を行いました。機械学習における最適化の説明、マーケティング分野での人工知能の活用法、人工知能を通じて顧客を理解する方法について詳しくお話を伺いました。

 

岡本さんの自己紹介

岡本さん: よろしくお願いします。

慶應義塾大学理工学科の博士課程を修了した後、千葉大学で教員(助教と准教授)を務めました。私の専門分野は計算知能で、現在の人工知能を支える、ニューラルネットワーク、最適化、進化計算を研究対象としています。

※計算知能: 人工知能分野の1つで、ファジィシステムやニューラルネットワークや進化的計算といったヒューリスティック的アルゴリズムをを主な研究対象とする。その他にも、群知能、フラクタル、カオス理論、人工免疫系、ウェーブレットといった技法も利用する。

2017年からSENSYに移り、今はSENSY株式会社で研究部門の代表を務めています。CRO(cheif research officer)っていう、ちょっと特殊な役職名です。聞き馴染みのない表現だと思うんですけど、日本のAI系ベンチャーだと他に2、3人知っているので、今後増えるんじゃないかなと思います。

 

今まではどんな人工知能研究を行っていたのですか?

岡本さん: SENSY入社前、私は主に今の人工知能や機械学習の基となっている「最適化」のアルゴリズムを研究していました。

※最適化理論: 特定の集合上で定義された実数値関数または整数値関数についてその値が最小(もしくは最大)となる状態を解析するアルゴリズムとその理論。

具体的な応用例としては、ネットワークルーティングの問題、電力系統における最適化技術を扱っていました。ネットワークルーティングの問題は、ネットワーク上で人間や物が移動します。移動する度にコストがかかってしまう中、どのルートを通ればその人がゴールまで一番コストが小さく辿り着けるのか。この問題を解決する高速な最適化アルゴリズムの開発を行っていました。電力系統における最適化では、蓄電池をどのように配置し、他の電源とともにどのように運用すれば、コストが小さく、安定的な運用ができるか、という問題を解決するアルゴリズムを研究開発していました。

最適化問題によっては、評価に対する計算負荷が大きいことがあります。たとえば、ものを設計する時、「どういう設計変数を使うと最適な結果が得られるか」という問題をシミュレートしながら最適化を行う場合があります。しかし、シミュレーターに「こういう設計変数で評価してください」と指示すると、シミュレーターが応答するのに1〜2日かかってしまいます。研究する時は100、1000パターンなどと大規模にテストしますから、毎回1〜2日待っていたら絶望的な時間がかかってしまいます。

ここで、機械学習が活用できます。機械学習アルゴリズムを使えば、シミュレーター内の計算結果そのものを機械学習で近似できてしまう。

※近似: 数学や物理学において、複雑な対象の解析を容易にするため、細部を無視して、対象を単純化すること。

簡単にいえば、「こういう設計でこういう評価をしてくれた」ということを機械学習が覚えていきます。シミュレーターが返してきた応答のパターンをいくつか集めて、パターンを学習させ、学習が終わったアルゴリズムを用いて評価を行いながら、最適化を行う方法は、シミュレーターだけを使うより遥かに速いです。

 

得られた解が「最適」かどうかは、どう判断される?

岡本さん: 最適化は、最も効率的な解を探る研究。そこで一度得られた解が「最適」かどうかは色んな人に問われる質問です。

最適化の理論の世界で「絶対に最適な解」はいくらでも定義付けられるけど、実際に得られた解が最適だと保証することは難しい。

現実的な応用においては、厳密な最適化を有限な時間で得ることは不可能と考えて、得られた解がその人にとって満足できる水準に達しているかどうかを考える。例えば、ある設計問題を解いた時に、設計コストが1000円を切れば十分と思えば、1000円を切った解が一つ得られればよいと考えます。これは、実は、機械学習でも同様で、意思決定者が満足する学習結果を得られたところで、学習プロセスを終了させます。

 

SENSYってどんな会社?

岡本さん: 弊社では、感性学習を中心とした人工知能「SENSY」を開発しています。

現在の深層学習は、主として、画像認識、音声認識、自然言語処理を中心とした知覚のデジタル化に応用されています。すなわち、知覚の代替とその情報処理の一部の自動化です。一方で、SENSYでは、より複雑な情報処理である感性の学習する人工知能の開発を行っています。

sensy marketing brainホームページのスクリーンショット

 

「感性」とは?

岡本さん:「感性」と聞くと、ふわっとした感覚を覚えると思いますが、SENSYでは、「どんな人」が、「いつ」、「どこで」、「何に対して」、「どう感じたか」の間にある因果関係を感性と呼んでいます。

その感性を、ディープニューラルネットワークで、色んな場所で色んな人が行動した大量のデータの中から学習しするのがSENSYの人工知能です。

 

「感性」と「感情分析」の違いは?

感情分析: 文章の意見を判断し、それがポジティブかネガティブなのかを判断すること。出来事や製品に対する世間の意見を測るために役立つ機能。

岡本さん: 感情分析では、文章等のデータを表現した人が、どういう感情をもってそのデータを表現したかを予測します。。一方、SENSYでは、誰が、何に対して、いつ、どこでの情報を入力として、「どう感じるか」を予測し、出力します。感情分析は、「どう感じたか」を文章表現等から読み取る技術なので、出力の表現を得るためのものといえ、弊社の人工知能研究の一部といえます。

 

今現在、SENSYでどんな人工知能研究を行っていますか?

岡本さん: 今、SENSYで集中的に研究しているのが、ビジネス向けのSENSY MD(マーチャンダイジング)とSENSY Marketing Brainの開発です。

SENSY MDは、商品の需要予測を行い、追加発注、仕入れ、マークダウンなどの最適化を行うプロダクト・サービスです。

SENSY Marketing Brainは、マーケティングに最適なチャネルの選択、レコメンド商品、キャッチフレーズ、デザインなどをパーソナライズします。パーソナライズDM(ダイレクトメッセージ)やメルマガなどで導入が進んでいます。

sensy marketing brainの説明スライド

 

Marketing Brainを事例として、機械学習プロセスを詳しく説明していただきました。

Marketing Brainのレコメンド商品を事例として、岡本さんに機械学習プロセスを詳しく説明していただきました。

伝統的なマーケティング戦略ではペルソナを作って当てていきますよね。でも、SENSYでは、膨大なデータを使って、顧客一人一人を個のレベルで分析します。「個のレベル」というのはまさにパーソナル、文字通り一個一個という意味です。

たとえば、顧客の情報は、生涯の購買金額や、過去1年の購買金額などの集計された情報をよく用いると思うのですが、SENSYでは、これをあらゆる粒度で、究極的には、1つ1つの購買情報を直接入力に用いることで「個」を表現しています。商品についても同様で、アパレル商品で言えば、「赤い」、「柄入り」といった情報から、どのような顧客が購入しているのか、商品画像から読み取った情報までを入力に用いることで「個」を表現しています。

機械学習のプロセスでは、クライアント企業からいただいた購買履歴の情報を、学習データとして利用しながら、感性を学習し、顧客の行動を予測しています。

 

新規顧客で購買履歴が存在しない場合の対応は?

一般には、購買回数に関係なく、一つの学習機でその顧客のデータ全てを一気に学習させています。

もちろん、リピート顧客のほうが予測精度が高くなりますが、たとえ購買履歴のデータが少ない場合でも、何を買ったかとか、買い物をした直前の行動からその顧客の個性が出てくるはずです。

それに、顧客一人一人の特徴を表すものは購買履歴以外にもたくさん存在します。例えば、年齢、性別、居住地域、カード会員かどうかなどです。機械学習アルゴリズムは他の顧客のデータも学習されているわけで、過去の顧客と新規顧客のデータを組み合わせなからパターンを抽出します。

新規顧客だからといって、最初から、ペルソナを使うとは限りません。最初はペルソナを使って、その後例えば5〜10回分の購買履歴データを収集したところで、個人の情報を使った機械学習アルゴリズムに切り替える、という仕組みではありません。どのような特徴量を重視するかは、人工知能の学習に任せてしまいます。もし、ペルソナ的にデータを運用したほうが精度が向上するのであれば、人工知能がそのように学習していくはずです。

 

岡本さんから、AI業界に入りたいと思っている人たちへのアドバイス

今のAIは、コンピュータが自分で問題を見つけることができません。人間が問題設定を考える必要があります。機械学習プロジェクトの成功の鍵は、定式化 — 何を入力として、何を出力とするかを定義することです。学習アルゴリズムについて理解することも大事ですが、定式化についてもよく考えるようにしてください。

 

機械学習をやる上でどのくらいの数学知識が必要となりますか?

岡本さん: 大学の理工学部1、2年生の数学の知識とPython、それに講義と演習を8回分で習得可能です。数学は線形代数、行列式、微分・積分、ベクトルの知識が必要となります。それに、確率の理論の基礎。確率は、機械学習をより深く理解するためには必要となってきます。

数学は「数式」を言語としている使っているだけなので、数学的な難しい式展開の能力がなくても大丈夫です。数式を使えば、機械学習モデルを、他の研究者がわかるように簡単に表現できます。「数学」というと難しく聞こえるかもしれないから、コミュニケーションツールの一つと考えると良いでしょう。

 

Lionbridgeの学習データサービスについて

当社はAI学習データの収集、アノテーション、検証などのサービスを提供しております。どのようなAI開発プロジェクトでもしっかりと支援いたします。世界の各タイムゾーンを渡る、100万人の認定コントリビューターが登録されているので、大規模な機械学習プロジェクトも素早く仕上げることができます。

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